GMX V1の成功と限界

GMX V1は、分散型デリバティブ市場における革新的なプロトコルとして大きな成功を収め、DeFi分野で特にデリバティブ系のプロトコル中、非常に高い収益を達成しました。特に、ブロックチェーンプロトコルとしての収益はトップ10に位置づけられ、DeFi分野の中でも特にデリバティブ系のプロトコルとしては圧倒的な収益を上げています。そのユーザーフレンドリーな取引体験は、多くのトレーダーに支持されました。

GLPモデルの限界と方向性への影響

GLPモデルでは、流動性プロバイダーがトレーダーの勝敗に直接関わる形となり、その結果、特に市場の大きな動きの際にはリスクが増加しました。トレーダーのポジションがロングかショートに偏って大きく収益を上げるとカウンターパーティの役割を果たす流動性プロバイダーが損失を被ることになるので、ロングとショートが同じくらいのポジションでトレードが行われることで取引の収益の影響を減らし手数料を着実に稼げるのが流動性プロバイダーとしては望ましいです。GLPモデルの課題は、特にロングとショートのポジションのバランスを取ることの難しさにあり、これがV2での主要な改善点となっています。手数料構造は、特に大規模トレーダーに有利でしたが、小規模トレーダーにとっては他のプラットフォームがより魅力的であることがプロトコルの浸透の壁になっていました。これらの点を踏まえ、GMXはV2でこれらの問題への対応を図っています。

GMX V2の概要

GMX V2は、分散型金融(DeFi)における革新的な無期限先物取引プラットフォームです。GMX V1からの重要な進化として、GMX V2では各取引ペアごとに流動性プールが分かれており、GLPモデルとは異なるアプローチを採用しています。この変更により、トレーダーはより特定の市場条件に合わせた流動性を利用できるようになりました。また、Chainlinkのオラクルを活用し、市場データの正確性と速度を高めています。

プラットフォームはデリバティブ取引に特化し、ロング・ショートの両ポジションをサポートしています。流動性プロバイダーは、GMプールから手数料収入を得ることができ、これがプロトコルの持続可能性を高めています。

TVLの順調な増加やV1からの移行が進んでおり、GMX V2は分散型金融の中で重要なポジションを築きつつあります。無期限先物市場におけるリーディングプラットフォームとしての地位を確立し、DeFiエコシステムにおいて一線を画す存在となっていると言えるでしょう。ユーザーフレンドリーなインターフェースと高度な機能性により、GMX V2は、トレーダーにとって魅力的な選択肢となっています。

GMプールによる流動性提供

GMX V2では、各取引ペアごとに分かれたGMプールを通じて流動性が提供されます。これにより、それぞれの市場条件に特化した流動性プロバイダーの参加が可能になり、より効率的なリスク管理と収益機会を提供しています。GMプールは、ユーザーがレバレッジ取引を行う際に必要な資金を供給し、これによってプールは取引手数料を獲得します。プール内の資金は、取引ペアごとに分割されるため、市場の特定の動向に対して個別に対応することが可能です。

レバレッジ取引による借入手数料などの取引手数料について

  1. オープン/クローズ手数料 (Open / Close Fees): ポジションの開始または終了時に適用される手数料で、ポジションサイズの0.05%または0.07%です。この手数料は、ポジションの増減にも適用されます。ロングとショートのバランスが改善される取引の場合、手数料は0.05%ですが、そうでない場合は0.07%となります。
  2. スワップ手数料 (Swap Fees): 通常のスワップ取引にかかる手数料で、スワップ額の0.05%または0.07%です。ステーブルコインのスワップには、0.005%または0.02%の手数料が適用されます。
  3. ファンディング手数料 (Funding Fees): 開かれているポジションに対して適用される手数料で、ロングとショートのバランスに基づいて調整されます。ロングが多い場合はロングがショートに、ショートが多い場合はショートがロングに支払います。
  4. アダプティブファンディング (Adaptive Funding): 一部の市場では、ロングとショートの比率に基づいて段階的に調整されるファンディングレートが設定されています。
  5. 借入手数料 (Borrowing Fees): オープンポジションに対して適用される手数料で、ロングとショートのバランスに基づいて調整されます。ロングが多い場合はロングが、ショートが多い場合はショートが支払います。この手数料は、すべての流動性がポジションに予約されるシナリオを防ぐために設けられています。

レバレッジ取引の流れ

GMX V2では、レバレッジ取引は以下の流れで行われます。

  1. 取引ペアの選択: ユーザーは、ETH/USDのような取引ペアを選択します。この例では、ETHがロングトークン、USDCがショートトークンとなります。
  2. ポジションの開始: ユーザーは、市場の予測に基づいてロング(買い)またはショート(売り)のポジションを開始します。ロングの場合、価格上昇を見込んでETHを買い、ショートの場合、価格下落を見込んでUSDCを売ります。
  3. レバレッジの適用: ユーザーは、希望のレバレッジ倍率を選択してポジションを開始します。レバレッジを使用することで、少ない資本で大きなポジションを取ることが可能になります。
  4. 手数料の支払い: ポジションを開始および終了する際には、オープン/クローズ手数料が発生します。また、ファンディング手数料など先に解説した他の手数料が適用される場合もあります。

この取引メカニズムにより、ユーザーは市場の動向に応じて柔軟に投資戦略を立てることができます。GMX V2は、ユーザーに対して直感的で使いやすいトレーディングインターフェースを提供し、効率的な市場参加を支援しています。

GMX V2のリスク

GMX V2におけるリスクとセキュリティ対策について、以下の重要なポイントが挙げられます:

  1. スマートコントラクトとブロックチェーンアプリケーションのリスク: 公式ドキュメントによれば、GMX V2ではスマートコントラクトのリスクが存在します。新しいコードはいくつかの監査を受けていますが、標準的なスマートコントラクトのリスクは引き続き適用されます。
  2. 流動性提供におけるリスクの理解: GMX V2では、流動性提供者はトレーダーの取引に対する資金を提供します。トレーダーが利益を上げる場合、その利益は流動性プールから支払われます。これにより、市場の動向に応じて流動性プールの価値が変動するリスクが生じます。特に、市場が急激に動くと、流動性プールが大きな影響を受ける可能性があります。そのため、流動性提供者は、市場の動きに応じたリスク管理と適切な資金配分を慎重に行う必要があります。
  3. サードパーティとの統合リスク: GMXは、Chainlinkの低遅延オラクルなど、他のプロトコルにある程度依存しています。これらのパートナーとの統合にはリスクが伴う可能性があり、特に新製品の場合は展開中に小さな問題が生じる可能性があります。

これらのリスクは、GMX V2の運用において重要な考慮事項です。ユーザーはこれらのリスクを認識し、それに応じて行動する必要があります。

ChainLinkオラクルの活用とそのメリット

GMX V2では、Chainlink Data Streamsが統合されています。Chainlink Data Streamsは、デリバティブ取引所や他の高精度DeFi製品の遅延感度に対処するために設計された、新しい低遅延オラクルソリューションです。Chainlink Data Streamsは、公正で正確な高頻度の市場データをプルベースで提供することを目指しています。Chainlinkのデータは分散型オラクルネットワークによって暗号化され、オンチェーンで検証されており、業界標準の実績のあるインフラストラクチャによりGMX V2との連携が支えられています。

データの正確性と速度の向上、セキュリティの強化

Chainlink Data Streamsの統合により、GMXはリアルタイムの価格更新と高速なオンチェーン取引の実行をサポートできるようになりました。これにより、プロトコルのパフォーマンスが強化され、データのセキュリティが硬化され、フロントランニングや価格操作のリスクが軽減されます。Data Streamsの「コミット・アンド・リビール」アーキテクチャは、サブセカンドのデータ配信を可能にし、実行前に取引のプライバシーを保護することで、フロントランニングを軽減します。これにより、透明性と分散化を損なうことなく、低遅延の市場データと超高速な取引決済を提供し、集中管理ソリューションのリスクを取り除きます。

マーケットの価格発見と流動性管理における影響

低遅延オラクルは、フロントランニングを難しくし、オーダーの実行に要するエントリー/エグジットの価格と時間の体験を滑らかにします。GMXはChainlink Data Streamsを実装する最初のプロトコルです。リミット/ストップオーダーは、選択された価格にオラクルが達する限り、たとえ価格変動が非常に速くても常に実行されます(以前のバージョンでは、高いボラティリティの際に一部のオーダーが実行されないことがありました)。Chainlink Data Streamsとの統合によって、GMX V2は、特にデリバティブ市場において、より効率的で安全な取引環境を提供しています。

まとめ

GMX V2は、分散型金融の進化を目指し、革新的な機能と強化されたセキュリティを提供しています。GMX V1の成功を受けて、V2ではレバレッジ取引の枠組み、GMプールの構造、およびトークン取引の方法が改善されています。特に、GMプールは取引ペアごとに分けられ、流動性プロバイダーのリスク管理が改善されています。レバレッジ取引では、オープン/クローズ手数料、ファンディング手数料、および不均衡手数料が適用され、市場の健全性と公正性を保つためのバランスを取りながら、効率的な資本運用が可能になっています。

GMX V2はまた、Chainlinkの低遅延オラクルを統合し、リアルタイムの価格更新と迅速なオンチェーン実行を実現しています。この技術により、ユーザー体験は向上し、市場データの正確性と速度が確保され、セキュリティが強化されています。さらに、フロントランニングや価格操作のリスクも軽減されています。

GMX V2は、分散型金融における新しいスタンダードを確立し、より公正で効率的な取引環境を提供しています。これにより、デリバティブ市場においても、より多くのユーザーが分散型金融の利点を享受できるようになっていると言えるでしょう。

参考
https://docs.gmx.io/docs/intro/
https://gmxio.substack.com/p/gmx-v2-powered-by-chainlink-data
https://chronicle.castlecapital.vc/p/deciphering-gmx-v2-next-wave-decentralized-perps

鵜川 佑稀

エンジニア。一橋大学商学部商学科卒。2022年にブロックチェーン・Web3の業界に入り、ドバイに移住してDeFiのスマートコントラクトやL1チェーンの開発に従事。現在は福岡在住。