Uniswap V4について解説|フック機能とガス代削減の革新

2025/02/06

Uniswap V4について解説|フック機能とガス代削減の革新

代表的な暗号資産(以下、仮想通貨)の分散型取引所Uniswapが、待望の新バージョン「Uniswap V4」をローンチ。

フック機能の導入により、開発者は独自の取引ロジックを柔軟に組み込むことが可能になり、より多様なDeFiサービスの展開が期待できます。また、シングルトン設計の採用でガス代を大幅に削減し、動的な手数料設定にも対応。

本記事では、Uniswap V4の革新的な機能と、それがDeFiエコシステムにもたらす可能性について詳しく解説します。

Uniswap V4とは?注目の新機能と特徴を徹底解説

分散型取引所(DEX)の代表格であるUniswapが、2025年2月に新バージョン「Uniswap V4」をローンチしました。

フック機能の導入、シングルトン設計の採用、動的手数料システムの実装など、取引システムの基盤から大幅な改良が施され、DeFiの新たな可能性を切り開く革新的なアップデートとなっています。

Uniswap V4で実現した3つの重要な改善点

1つ目の改良点は「シングルトン設計」と呼ばれる新しい管理方式の導入です。これまでのUniswapでは、取引プールごとに個別のスマートコントラクトを必要としていましたが、V4ではすべての取引プールを単一のスマートコントラクトで一元管理します。この改良により、新しいプールの作成コストを99%削減することに成功。さらに、複数のトークンを連続して取引する際の効率も大幅に向上し、ユーザーの取引コストを大きく削減することが可能になりました。

2つ目は「フラッシュアカウンティング」という革新的な残高管理システムの導入です。従来のシステムでは、取引の各段階で残高の更新と記録が必要でしたが、V4では取引の最終的な残高変更のみを処理する方式を採用しています。例えば、複数のトークンを連続して取引する場合、中間段階での残高更新を省略できるため、処理コストを大幅に削減できます。この機能は特に、複雑な取引や大量の取引を行う場合に大きな効果を発揮します。

3つ目は、ネイティブETH(イーサリアム)の直接取引対応です。これまでのV2とV3では、ETHを一度WETH(Wrapped ETH)に変換する必要がありましたが、V4ではETHを直接取引できるようになりました。ETHの転送にかかるガスコストはERC-20トークンの約半分(ETHは21,000ガス、ERC-20は約40,000ガス)であり、この対応により取引コストを大幅に削減できます。実際の取引データによると、多くのユーザーがETHでの取引開始や終了を好む傾向にあり、この改善は実用面で大きな価値があります。

これらの3つの改善により、V4は取引コストの削減と取引効率の向上を実現し、より使いやすく経済的なDEXプラットフォームとなっています。特に、大量の取引を行う機関投資家や、複雑な取引戦略を実行するトレーダーにとって、これらの改善は非常に重要な意味を持ちます。

革新的なフック機能の仕組み

フック(Hooks)とは、Uniswapの取引プールに独自の機能を追加できる画期的な仕組みで、実態はデプロイされたコントラクトです。プールの作成者は、取引のライフサイクル全体(プールの作成、流動性の追加・削除、スワップの実行、寄付操作など)において、独自のプログラムロジックを組み込むことができます。これにより、各プールは標準的な取引機能に加えて、独自の付加価値を持つことが可能になりました。

フック機能では、取引プールのライフサイクルにおける以下の8つのタイミングで独自の処理を実行できます:

  • 初期化時のフック(Initialize)
    • beforeInitialize: プール作成直前の処理を定義できます
    • afterInitialize: プール作成直後の処理を定義できます
  • 流動性の追加時のフック(AddLiquidity)
    • beforeAddLiquidity: 流動性追加前の処理を定義できます
    • afterAddLiquidity: 流動性追加後の処理を定義できます
  • 流動性の削除時のフック(RemoveLiquidity)
    • beforeRemoveLiquidity: 流動性削除前の処理を定義できます
    • afterRemoveLiquidity: 流動性削除後の処理を定義できます
  • スワップ時のフック(Swap)
    • beforeSwap: スワップ実行前の処理を定義できます
    • afterSwap: スワップ実行後の処理を定義できます

これらのフック関数を用いたコントラクトをデプロイし、以下のような取引機能が備わったプールを作成することでができます:

  1. 時間加重平均取引(TWAMM)の実装
    大口注文を時間をかけて少しずつ執行することで、市場価格への影響を最小限に抑えることができます。例えば、100万ドル規模の取引を24時間かけて少額ずつ実行することで、急激な価格変動を防ぎながら取引を完了できます。
  2. 高度な指値注文システム
    従来のDEXでは実現が難しかった複雑な指値注文が可能になります。例えば、特定の価格帯に達した時だけ取引を実行したり、複数の条件を組み合わせた注文を作成したりできます。また、注文の部分的な執行や、時間制限付きの注文なども実装可能です。
  3. 動的な価格決定メカニズム
    市場のボラティリティや取引量に応じて、自動的に価格や手数料を調整するシステムを実装できます。例えば、ボラティリティが高い時期は手数料を上げて流動性提供者を保護し、低い時期は手数料を下げて取引を促進するといった戦略が可能です。
  4. カスタムオラクルの実装
    プール独自の価格参照システムを構築できます。これにより、より正確な価格情報の提供や、特定の用途に特化した価格計算方式の実装が可能になります。
  5. 独自の流動性管理戦略
    プールの状態に応じて流動性を自動的に調整したり、特定の条件下でのみ流動性を提供したりするなど、高度な流動性管理戦略を実装できます。たとえば、価格変動が大きい際に自動的に流動性を調整して、インパーマネントロスを最小限に抑えることも可能です。

これらの機能は、開発者が独自のアイデアを実装する際の自由度を大幅に高めます。従来のDEXでは、このような機能を実装するためには完全に新しいプロトコルを開発する必要がありましたが、V4のフック機能を使えば、既存のインフラを活用しながら柔軟に機能を追加できます。

さらに、フック機能は将来的な拡張性も備えています。開発者コミュニティによって新しいフックが開発され共有されることで、DEFiエコシステム全体がより豊かになっていくことが期待されます。例えば、新しい取引戦略や、より効率的な価格発見メカニズム、革新的なリスク管理手法など、様々な機能が今後も追加されていく可能性があります。

このように、フック機能はUniswap V4の中核となる革新的な機能であり、DEFiの可能性を大きく広げる重要な要素となっています。

動的手数料システムの詳細

V4では、手数料の設定と管理方法が大幅に進化し、より柔軟で効率的なシステムが実現しました。従来のバージョンでは固定的だった手数料設定が、V4では市場状況に応じて動的に調整できるようになっています。

手数料設定には以下の2つのオプションがあります:

  1. 静的手数料設定
    プール作成時に0.01%から1%の範囲で手数料率を固定できます。この設定は、安定的な取引が予想されるペアや、シンプルな運用を望むプールに適しています。
  2. 動的手数料設定
    市場の状況に応じて自動的に手数料率を調整できます。調整の頻度は非常に柔軟で、以下のような設定が可能です:
  • 取引(スワップ)ごとの調整
  • ブロックごとの調整
  • 定期的(週次・月次・年次)な調整
  • カスタム設定による調整

動的手数料の活用例として、以下のようなシナリオが考えられます:

  • ボラティリティが高い時期は手数料を引き上げてプールの安定性を確保
  • 取引量が少ない時間帯は手数料を下げて取引を促進
  • 競合プールの状況に応じて最適な手数料率に自動調整
  • 特定のイベント(市場の急変時など)で手数料率を動的に変更

このように、V4の動的手数料システムは、市場の状況やプールの特性に応じて最適な設定を選択できる柔軟性を備えています。これにより、より効率的な取引環境の実現と、持続可能なプロトコルの運営が可能になっています。同時に、各設定には適切な制限が設けられており、システムの安全性と安定性も確保されています。

Uniswap V4の使い方と注意点

Uniswap V4は、革新的な機能を多数搭載した完全に新しいプロトコルとして実装されています。そのため、利用を開始する前に重要な準備と注意点を理解しておく必要があります。また、前章で説明したフック機能が実装されたスマートコントラクトのアドレスがあれば、以下の方法でその機能を利用することが可能です。

V3の利用者はV4への移行が必要

最初の重要なポイントは、V4は既存のV3プールとは完全に独立した新しいプールとして展開されるという点です。

このため、V3のプールで取引や流動性提供を行っている場合、それらの資産は自動的にV4に移行されることはありません。V4の新機能を利用するためには、改めてV4の新しいプールに資産を移動する必要があります。

この点を十分に理解した上で、V4の利用を検討することが重要です。移行を急がず、小額での取引や流動性提供からスタートし、段階的に取引量を増やしていくことをお勧めします。

フック機能の活用方法

フック機能を持つスマートコントラクトがデプロイされているという前提として、以下の手順でV4のフック機能を利用することができます:

1. Uniswapの公式サイトにアクセスし、Wallet(ウォレット)を接続します。

2. [プール]タブの[ポジションを作成]をクリックします。 

img_uniswap_v4_01

3 .デフォルトで[v4のポジション]が選択されているので、ポジションを取りたいトークンペアを選択します。

img_uniswap_v4_02

4. トークンペアの直下にある[フックを追加]をクリックし、フック機能が実装されたスマートコントラクトのアドレスを入力します(以下は、Uniswap公式Support記載のアドレスを転用)。

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5. 警告(Warning)の内容を注意深く確認し、リスクを理解した上でチェックボックスにチェックを入れ、[続行]をクリックします。さらに、手数料オプションを選択し、再度[続行]をクリックします。

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6. 指定したプールが存在する場合は流動性提供の設定画面へ移行し、存在しない場合は以下の様なプールの初期設定画面へ移行します。プール作成時の初期設定が終われば、[続行]をクリックし、最終的にプール作成のトランザクションを完了させたら終了です。

img_uniswap_v4_05

重要な注意点: 現時点では、セキュリティが十分に検証された安全なフックコントラクトの開発が発展途上です。今後、信頼できる開発者やプロジェクトから様々なフック機能が提供されることが期待されますので、それまではフック機能の利用には慎重を期することをお勧めします。

Uniswap V4で広がるDeFiの新たな可能性

Uniswap V4は、単なるDEXの進化にとどまらない、DeFiエコシステム全体を変革する可能性を秘めています。特に、フック機能の導入とシングルトン設計の採用により、これまでにない柔軟性と効率性を実現しました。これらの革新的な機能は、DeFiの未来にどのような可能性をもたらすのでしょうか。

新たな取引形態の可能性

V4の新機能により、従来のDEXでは実現困難だった高度な取引手法が可能になります。例えば、時間加重平均取引(TWAMM)を実装することで、大口取引による市場への影響を最小限に抑えることができます。これは機関投資家の参入を促す重要な進展となるでしょう。

また、フック機能を活用することで、より精緻な指値注文システムの実装も可能になります。価格変動に応じて自動的に注文条件を調整したり、複数の条件を組み合わせた複雑な注文戦略を実行したりすることができます。

さらに、動的手数料システムとの組み合わせにより、市場の状況に応じて最適な取引戦略を自動的に選択することも可能になります。これらの新機能は、DeFiにおける取引の自由度と効率性を大きく向上させる可能性を秘めています。

インフラストラクチャとしての発展

V4の重要な特徴の一つは、開発者が独自の機能を実装できる柔軟な基盤としての役割です。フック機能により、各プロジェクトは独自の取引ロジックをUniswapのインフラストラクチャ上に構築することができます。

これは、例えば以下のような可能性を開きます:

  • プロジェクト固有のトークノミクスに基づいた取引ルールの実装
  • 特定のユースケースに最適化された価格決定メカニズムの導入
  • コミュニティ主導の革新的な取引機能の開発

また、シングルトン設計の採用により、これらの機能を非常に効率的に実装することが可能です。ガスコストの大幅な削減は、より多くの開発者がUniswapをプラットフォームとして採用する動機となるでしょう。

このように、UniswapはV4によって、単なる取引所から、DeFiエコシステム全体の基盤となるインフラストラクチャへと進化する可能性を秘めています。今後、様々な開発者やプロジェクトがこのプラットフォーム上で革新的なサービスを展開することで、DeFiの可能性はさらに広がっていくことが期待されます。

まとめ

Uniswap V4は、フック機能の導入やシングルトン設計の採用により、DEXの概念を大きく進化させました。特にフック機能は、開発者が独自の取引ロジックを実装できる柔軟性を提供し、DeFiにおける新たな可能性を切り開きます。また、シングルトン設計とフラッシュアカウンティングの採用により、取引コストを大幅に削減し、より効率的な取引環境を実現しています。

ただし、V4の利用を検討する際は、V3からの自動的な資産移行ができないことに注意が必要です。また、フック機能は強力な一方で、その利用には慎重なアプローチが求められます。現時点では安全性が確認されたフックの開発は発展途上であり、今後のエコシステムの成長を見守りながら、段階的な活用を進めていくことが賢明でしょう。

この記事は以下の参考サイトに基づいて作成しています。

矢井田 友暉

理学博士。植物を対象とした保全生態学分野での研究活動と並行し、ブロックチェーンやスマートコントラクトの開発に従事。日本とドバイでWeb3プロジェクトの開発経験を持つクロスフィールドな研究者/エンジニア。

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